美味しんぼ10巻『キムチの精神(こころ)』で栗田ゆう子が「ヒリヒリイライラするような辛味じゃないのね、丸みのある辛さなのよ」と本物のキムチについて語る場面がある。山岡士郎は「この店のキムチに使っているのは韓国産の唐辛子、持ってきたキムチに使ったのは日本産の唐辛子。不思議なことに同じ唐辛子の種でも日本の土地に蒔くと辛さはきつくなり、韓国の土壌に蒔くと辛さが丸くなる」と語る。キムチに韓国唐辛子が重要なように、パスタにはカラブリア唐辛子が重要。イタリアが生んだ赤い宝石を紹介する。
パスタはカラブリア唐辛子
キムチと同じく、美味しいパスタを食べるには日本の唐辛子や鷹の爪ではいけない。パスタの聖書は辛いものが大の苦手で、甘いものが大好き。日本の唐辛子や鷹の爪を使ったパスタを食べると舌がヒリヒリして後味の悪さだけが残る。そんなときに出逢ったのがカラブリア産の唐辛子。辛味は強いが、ちゃんと旨味がある。そして単調なパスタにキレを生む。まさに魔法の調味料。パスタのレパートリーが広がり、一気にパスタ作りが楽しくなった。しかもカラブリア産の唐辛子は100個以上入って1,000円。2年以上使えるからコスパ最強なんてもんじゃない。もう日本の唐辛子には後戻りできなくなっていた。
カラブリア唐辛子の歴史
そもそも唐辛子の歴史は中南米メキシコに遡り、紀元前6000年頃には存在していたと言われる。しかし、世界に広がるのは15世紀になってからで、日本もヨーロッパの南蛮船から伝わったと言われる。もともと中南米原産だった唐辛子がヨーロッパに渡ったのも15世紀末コロンブスの新大陸発見からで、カラブリア唐辛子も、そこから栽培が始まったといわれる。
カラブリア州の唐辛子
カラブリア州はイタリアのブーツの形をした国土のつま先。尾崎豊が愛したブランド「ヴェルサーチ」の設立者ジャンニ・ヴェルサーチの出身地であり、映画『ディパーテッド』でジャック・ニコルソンが演じたマフィアの首領フランク・コステロもカラブリア州の生まれ。ワイン造りの歴史が古く、古代ギリシャ人によってブドウ栽培が始まり、紀元前6世紀以前から“エノトリア・テルス”(ワインの大地)と称えれた。海沿いの地域は温暖な地中海性気候、内陸の山岳地帯は冷涼で昼夜の温度差が激しい大陸性気候。
カラブリアで唐辛子が発達した理由
アラビアータに入れると美味しい「ンドゥイヤ(唐辛子の入ったペースト状のサラミ)」もカラブリアの特産。カラブリア州は冬は雪が降り寒さが厳しい。そのため、保存が効き、体を温める唐辛子の栽培が盛んになった。そして世界で最もパスタと相性の良い最強の唐辛子が誕生した。
カラブリア唐辛子と鷹の爪との違い
- 辛味がマイルド
- 最初に旨味が来る
辛味がマイルド
唐辛子の辛味を示すスコヴィル値がカラブリア唐辛子は30,000-40,000。日本の鷹の爪は40,000〜50,000なので、カラブリア唐辛子のほうがマイルド。
旨味のあとに辛味
そして、カラブリア唐辛子は食べたとき最初に旨味が来て、そのあとでピリッと辛さが来る。だから美味しく感じられる。
カラブリア唐辛子のパスタ
クリームパスタ以外のすべてのパスタにカラブリア唐辛子は使うが、その中でも魅力を堪能できる四天王を紹介する。
ペペロンチーノ
正式には「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」。パスタ名にペペロンチーノ(唐辛子)が付いているほど、カラブリア唐辛子(ペペロンチーノ)の代表格。ニンニクとオリーブオイルだけしか食材がないので、唐辛子の旨味がダイレクトに味わえる。日本とカラブリア唐辛子の違いを確かめるには最適解パスタ。材料やレシピは下のブログで。
アラビアータ
アラビアータは「怒りん坊」の意味で、唐辛子の辛さを「怒りん坊」と表現したもの。カラブリア唐辛子の魅力を最も味わえるパスタであり、1人前で3本くらい入れるので、最も日本の唐辛子との違いが分かるパスタ。
裁判所のパスタ
カラブリアで生まれたパスタ。カラブリア人の裁判長が「とても美味しいが、辛さが厳しく、私の仕事のようだ」と叫んだパスタで、カラブリアのは、賄い料理として絶対に作らない。アラビアータにチーズとイタリアンパセリを足したパスタなので、辛さが苦手な人におすすめ。
暗殺者のパスタ
日本でも大ブームを起こした「アッサシーナ(殺し屋)」のパスタ。カラブリア唐辛子の辛さと旨さに「お前は殺し屋だ!」とイタリアンジョークで褒めたパスタなので、カラブリア唐辛子の魅力を堪能できる。
最後までご覧いただき、あリガトーニ。