パスタ文化の素晴らしさを理解するのに、グリーチャ以上のものは存在しない。他のパスタは食材を自分流にアレンジすることはあるが、グリーチャだけは、できる限りペコリーノ・ロマーノとグアンチャーレを使ってほしい。
グリーチャとは
グリーチャとはグアンチャーレ(豚の頬肉の塩漬け)とペコリーノロマーノを使ったパスタ。「白いアマトリチャーナ」、カッコよく言うと「アマトリチャーナ・ビアンコ」とも呼ばれる。ビアンコは「白」の意味。グアンチャーレとペコリーノロマーノを使うことから「卵なしカルボナーラ」と表現する料理人もいる。ただし、どれも先輩はグリーチャ。「gricia」と書くので発音は「グリーシァ」だけどグリーチャでいいっしょ。
グリーチャの由来
「グリーチャ(gricia)」の名前はイタリア中部に位置するグリシャーノ村から。かつてローマの羊飼いは夏の放牧の時期にグリシャーノ村にやってきた。そこで村人はグアンチャーレを、羊飼いはペコリーノチーズを物々交換した。その2つを合わせて誕生したのがグリーチャ。人と人との交流が生んだ、温かい歴史のパスタである。カルボナーラが生まれたのは1940年代であり、グリーチャの食材やレシピが元。シェフの間ではグリーチャを「カルボナーラのお父さん」と呼ぶ人もいる。
グリーチャに欠かせない食材
グアンチャーレ
グアンチャーレ(guanciale)とは豚の頬肉、豚トロを塩漬けにして2〜3週間熟成させたもの。イタリア語で「le guanciale」は「枕」の意味。イタリア語で「頬」を意味する「guancia」から来ている。脂身が多く、フライパンで焼いて脂を抽出してパスタの旨味にする。イタリアにおいてはカルボナーラやアマトリチャーナにはグアンチャーレが使われる。日本ではベーコンが浸透しているが、イタリア人の中には人生でベーコンを食べたことがない人も多く存在する。
パンチェッタやベーコンとの違い
パンチェッタ(pancetta)は、豚バラのブロック肉を塩漬けにして熟成させたもの。グアンチャーレとは部位が異なり、名前の由来はイタリア語で「おなか」の意味がある「pancia」から。パンチェッタは「生ベーコン」とも呼ばれるように、ベーコンとの違いは「燻製しない」こと。ベーコンも豚バラ肉を熟成され、その後に「燻製」の工程が入る。燻製することで塩抜きれる一方、パンチェッタはベーコンに比べて塩分が強い。
- グアンチャーレ:脂が多い
- パンチェッタ:塩味が強い
- ベーコン:スモーキーな香りが強い
ペコリーノ・ロマーノ
ペコリーノ・ロマーノ(Pecorino Romano)は、羊のミルクが原料のハードチーズ。2000年以上前からあり、ローマ軍の食料として食べられた。イタリア最古のチーズと言われている。「ペコリーノ」は雌羊を指すイタリア語「ペコーラ」から、「ロマーノ」は「ローマ近郊の」と言う意味。その名の通り、ローマで生まれたチーズである。
塩味が強く、日本人にはクセが強すぎて敬遠され、レストランではあまり使われない。代わりにパルミジャーノを使う。しかしイタリア、特にローマではチーズ=ペコリーノ・ロマーノを指し、カルボナーラやカチョエペペ、アマトリチャーナなどのメジャーパスタにはペコリーノ・ロマーノが使われる。
グリーチャ(伝統)
まずは伝統のグリーチャを作って欲しい。イタリアで生まれたアモーレと文化を感じられる。さらに美味しくするには玉ねぎ、ニンニク、そしてカラブリア産の唐辛子を使ったほうがいい。それは次に紹介する。
グリーチャ(伝統)の材料・食材
- マルテッリ2.0mm:100g
- グアンチャーレ:40g
- ペコリーノ・ロマーノ:40g
パスタとグアンチャーレとペコリーノ・ロマーノだけ。ガチでこれだけ。オリーブオイルも使わない。具材がグアンチャーレだけなのでパスタは太麺がおすすめ。肉の旨味も受け止められる。とにかく豚の脂と塩味が全開。とにかく濃い。イタリア人向けの味付け。量はご調整を。
グリーチャ(伝統)のレシピ・作り方
- グアンチャーレを短冊切り
- ペコリーノ・ロマーノを削る
- グアンチャーレを弱火で炒める
- パスタを茹ではじめる
- グアンチャーレを取り出す
- 茹でたパスタをフライパンにダイブ
- ペコリーノ・ロマーノとよく混ぜる
- 皿に盛ってグアンチャーレをのせる
グアンチャーレは皮の部分を切って短冊切りにする。
ペコリーノ・ロマーノをチーズグレーターで削る。けっこう骨が折れる。
グアンチャーレは弱火でじっくり。焼くのではなく、脂を出す。汗をかかせるスエという調理方法。時々、裏返す。
グアンチャーレから脂が出切ったら取り出す。牛脂かと思うほど脂が出る。
茹でたパスタをグアンチャーレの脂と絡ませる。これがグリーチャの旨味。
削ったペコリーノ・ロマーノを混ぜる。ゴムヘラがあったほうがいい。
しっかりチーズをパスタに絡ませてクリーミーにする。これが伝統のグリーチャ。
皿に盛ってグアンチャーレをのせて完成。味が足りなければ胡椒をヌートバーする。
↓↓グリーチャ(伝統)の食材↓↓
元気玉グリーチャ
伝統を愛しておきながら、超邪道のグリーチャ。玉ねぎを大量に摂取し、ニンニクの香りも引っ張り出し、挙げ句の果てにはカラブリア産の唐辛子まで引っ張り出す。玉ねぎ、ニンニクと唐辛子の力を借りて元気玉グリーチャを作る。イタリア人が見たら呆れるかもしれない。激怒するかもしれない。それでも構わない。美味けりゃ官軍。これがグリーチャの最高峰。グリ・グリ・グリーチャの妙技を味わってほしい。
グリーチャの材料・食材
マルテッリの2.0mmはパッケージの黄色に惹かれた。明るいひまわりのように、心を爽やかにしてくれる。敬愛する小林幸司シェフがYouTubeで使用されていた。他のパスタに比べ、アルデンテで噛みごたえがある。まさに頑固者の小林シェフにピッタリ。
グリーチャのレシピ・作り方
- 玉ねぎ、ニンニクをスライスにする
- グアンチャーレを弱火で炒める
- グアンチャーレの油でニンニクを炒める
- 玉ねぎを炒める
- 少し炒めたら少量の水(茹で汁)を入れて蓋をする
- 茹でたパスタと混ぜる(水が足りなければ茹で汁を足す)
- お皿に盛ってペコリーノ・ロマーノの大雪を降らせる
小倉シェフは塩分を控えて水を足すが、塩魔大王は茹で汁を足す。
玉ねぎは繊維に沿ってスライスする。繊維に沿ってきると玉ねぎの細胞が壊れず加熱しても形が崩れにくく、食感を残せる。逆に繊維に逆らって切ると細胞が壊れ、玉ねぎの甘みを引き出せる。パスタによって使い分ける。
薄く切ったグアンチャーレを炒める。オリーブオイルを少量だけ垂らしてもいい。
グアンチャーレから大量の汗(脂)が出てくるので、その油でスライスしたニンニクを炒める。
ニンニクが完全に色づく前に玉ねぎをぶちこむ。軽く塩を振ると早く炒められる。
玉ねぎがしなっとしてきたら、少量の水もしくは茹で汁を入れて蓋をする。ここからパスタを茹でる。
パスタが茹で上がる1分前くらいに蓋を外し、カラブリア産の唐辛子を入れる。
茹でたパスタを混ぜる。グアンチャーレの美味しい脂、玉ねぎの奄美大島と絡ませる(誤字にあらず)。
お皿に盛って大量のペコリーノを削る。
↓↓グリーチャの食材↓↓
リガトーニのグリーチャ(ショートパスタ)
イタリアではショートパスタのグリーチャが好まれるらしい。メッツェマニケやペンネなどでグリーチャを提供するレストランも多い。今回はリガトーニで作ってみた。
リガトーニのグリーチャの材料
材料はシンプルの原点回帰、ルネッサンス。グアンチャーレが通販でも手に入らなくなってしまったので、パンチェッタで代用。条例で日本のスーパーは必ずグアンチャーレを置くように指定してほしい。リガトーニは他のショートパスタでもOK。
リガトーニのグリーチャの作り方
- リガトーニを茹ではじめる
- パンチェッタを弱火で炒める
- ペコリーノを擦りおろしておく
- パンチェッタから脂が出たら茹で汁を50cc加える
- 茹でたパスタを入れて混ぜる(火は止める)
- 火を止め、ペコリーノを少し残して混ぜる
- お皿に盛って残りのペコリーノを降らせる
パンチェッタは弱火でじっくり脂が出るのを待つ。オリーブオイルを少し敷いてもOK。
パンチェッタの旨みがアルミパンにこびりつくまで、じっくり焼く。
パスタを茹でパンチェッタを焼いている間にチーズをすりおろす。チーズは時間が経つほど風味が大脱走していくので、できるだけパスタ完成の間近に削る。
茹で汁を加えるときは、アルミパンの底についた焦げ(パンチェッタの旨み)をしっかり木べらで取ること。狙った獲物は逃さない。真実はいつもひとつ。
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リガトーニなどショートパスタを使うときは深型のアルミパンが便利。普通のアルミパンだとこぼれてしまう。
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ペコリーノ・ロマーノを加えるときは火を止める。チーズがすぐに固まってしまう。お皿に盛ったあとも見栄えよく振りたいので、少しチーズは残しておきましょう。お好みでコショウや白トリュフオイルをかけても美味しいです🎶
↓リガトーニのグリーチャの食材↓
そら豆のグリーチャ
パスタ文化を代表するグリーチャでも具材を足していい。さすがパスタの可能性は無限大。旬が5〜6月の空豆。豆果(さや)が空に向かってつくため「空豆」と呼ばれる。
そら豆のグリーチャの材料
グアンチャーレを使いたいが、全然手に入らないのでパンチェッタで代用。グリーチャはベーコンではなく最低でもパンチェッタを。小倉シェフは1.7mmを勧めるので、もうちょっと太くてもOK。あまり太すぎると具材と喧嘩してしまう。旨味を出すためにカラブリア産の唐辛子は必須。これがないとパスタにキレがなくなり、味がぼやけてしまう。1回買えば、1年以上は長持ちするので、ぜひ購入を。日本の唐辛子や鷹の爪は旨味がないのでNG。パスタにはカラブリア産。
そら豆のグリーチャの作り方
- 玉ねぎを太めに切る
- ニンニクをスライスする
- フライパンにオリーブオイルを引く
- パンチェッタを炒める
- 脂が出たら、そら豆を入れる
- ニンニク、唐辛子を入れる
- 玉ねぎを入れる
- パスタを茹ではじめる
- フライパンにパスタを混ぜる
- オリーブオイルを少量入れる
- お皿に盛ってペコリーノを削る
玉ねぎはスライス。結構太めに切って存在感を出す。
パンチェッタから脂を出すため弱火でじっくり炒める。
パンチェッタから美味しい脂が出たらそら豆を投入。
すぐさまニンニクとカラブリア産の唐辛子を入れる。火力はずっと弱火。
玉ねぎをぶちこむ。多すぎやろ!と思うだろうが、しなってくるのでモーマンタイ(無問題)。グリーチャは玉ねぎパスタなのだ。ここからパスタを茹ではじめる。
時間をかけて、十分にしなってくるタイミングでパスタを混ぜる。
お皿に盛ってペコリーノをたっぷり削ろう。写真は少なすぎたので追いロマーノ。具材が全部、隠れるくらい削るのがベスト・オブ・ベスト。
↓↓そら豆のグリーチャの食材↓↓
グリーチャ風パスタ(ワンパン)
歴史だ伝統だと騒いできたので、ここいらで一発バッタもんのグリーチャを紹介したい。グアンチャーレではなくベーコンを使った眉唾もの。けど美味いし手軽なのでお勧め。みんな大好物のワンパンのグリーチャである。
グリーチャ風パスタの材料
レシピの考案者マルコさんはパスタは太麺がいいというが、細マッチョでもOK。むしろ太すぎないほうがいいかもしれない。せめてものイタチの最後っ屁にペコリーノ・ロマーノを使ったけど、どうせバッタもんなので粉チーズでもOK。ヌートバー(胡椒)は、普通の黒コショウでいいし、今回は余っていた白コショウを使った。白いほうがパンチがある。バターは邪道の上塗りなので無しでOK。ベーコンはバターで炒めたほうが好きなので使った。もはやグリーチャというよりカチョエペペに近い。
グリーチャ風パスタのレシピ
- コショウをフライパンで炙る
- ベーコンを短冊切りにする
- コショウを粉々に砕く
- 胡椒を取り出しベーコンを焼く
- ベーコンよけて胡椒、水を入れる
- パスタを茹で、チーズを削る
- 茹で上がる直前でベーコンを入れる
- 火を止めてペコリーノを入れる
- よーく混ぜて皿に盛る
- 追いヌートバーで完成
ワンパンのグリーチャの作り方。マルコさんはバターを使わないので、どっちでもOK。
最初はフライパンで胡椒を空焚き。香りを引き出す。
コショウを炙っている間にベーコンを短冊切りにしておく。
コショウから香りが立ってきたら、包丁の腹や重いものでコショウをぶっ潰す。粉々にクラッシュ。これで香りが強烈に立つ。風立ちぬ。
コショウを取り出し、ベーコンを炒める。
ケビン・ベーコンはカリッカリにするのが礼儀。何度か裏返す。
ベーコンが勢いにのってきたら、フェラーリのように跳ね回るので、蓋をして監禁。フライパンの中で打ち上げ花火が起きている。
カリッカリになったらベーコンを一時退場。
再びコショウを戻し、水を550cc入れる。
フライパンの中でパスタを茹でるリゾッタータ。コショウの香りがすごい。
15分茹でなので時間たっぷりプリプリ。ペコリーノロマーノを削っておく。チーズは削った瞬間から風味が失われていくので茹で上がるギリギリchopに削る。
パスタが茹で上がる直前にベーコンを再入場。
すかさず削ったペコリーノロマーノを入れる。火は止める。熱でチーズがダマになってしまう。
ゴムヘラなどでよ〜く混ぜる。素早く混ぜることがポイント。
皿に盛って追いヌートバーで完成。
↓↓グリーチャ風パスタの材料↓↓
パスタは道具にこだわるほど美味しくなる、楽しくなる、愛おしくなる
最後までご覧いただき、あリガトーニ。