チーズは世界中で1,000種類を超え、各国でプライドをかけたチーズ戦争が繰り広げられる。我こそは最高のチーズと自負する国も多く、その中から勝手にチーズの王様を選ぼうものなら、下手をすれば56されかねない。ハードチーズはダイヤモンドと同じ。
チーズに興味を持ったのは幼稚園のとき、絵本『アナトール、工場へ行く』だった。幼い少年にとって、黄色く円盤のようなチーズは眩い太陽。今回は独断と偏見と偏愛で選んだパスタに合うプレミア12、パスタに集いし「十二使徒」を紹介する。
チーズの歴史
チーズの歴史は古く、紀元前4,000年〜3,500年前、メソポタミア地域(チグリス川、ユーフラテス川流域)で誕生したと考えられる。パスタが生まれたのが紀元前400年頃だから、チーズのほうが大先輩。チーズは人類最古の加工食品のひとつなのである。当時は硬いハードではなく、カッテージチーズのようなボショボショしたものだった。
日本のチーズの始祖
日本でも大化の改新があった645年の飛鳥時代、乳汁を煮詰めた「蘇」というチーズの原型が誕生。その後、879年にイタリアでゴルゴンゾーラチーズが誕生し、1500年代にイギリスでチェダーチーズが本格的に製造され、1791年にフランスでカマンベールチーズが誕生したと考えられている。
チーズのおすすめの使い方と道具
パスタにチーズを使うときはチーズグレーター(削り器)を使う。パスタにチーズを混ぜ込んでコクと旨味をプラス方法がひとつ。
重要なのは火を止めてからチーズを混ぜること。チーズの風味まで燃やしてしまい、すぐに固まってしまう。チーズはデリケートに扱う。
もうひとつのチーズの使い方は最後に削る。プロレスのフィニッシュホールド。チーズの味も加わるが、メインの目的は「映え」。料理は見た目がよいと美味しさがアップする。最後にチーズの大雪を降らせよう。
粉チーズはパスタにNG
粉チーズ(緑のやつ)が好きなジャパニーズには申し訳ないが、パスタに粉チーズはNG。生臭いうえに、おそらく保存料などの不純物のせいで固まりやすく、失敗の最大要因(上の動画で検証)。粉チーズはオシャレを気取って「パルメザンチーズ」と呼ばれるが、このあと紹介する「パルミジャーノ・レッジャーノ」とは全くの別物。当ブログでは「バッタモン・チーズ」と呼んでいる。パルミジャーノと混同しないように注意していただきたい。では、いよいよパスタに使われる美味しいチーズを紹介する。
イタリアのチーズ三銃士
パスタに最も使われる相棒は、パルミジャーノ・レッジャーノ、ペコリーノ・ロマーノ、グラナ・パダーノの3つ。一般的にイタリアの三大チーズといえば、「モッツァレラ」「ゴルゴンゾーラ」「パルミジャーノ・レッジャーノ」を指す。
パルミジャーノ・レッジャーノ
パルミジャーノ・レッジャーノ(parmigiano reggiano)は北イタリアで作られるチーズ。誕生は12世紀頃。「イタリアチーズの王様」とも呼ばれる。パルミジャーノ・レッジャーノの名前は美食の都・パルマとレッジョの地名を地名を組み合わせている。ちなみに「パルミジャニーノ」で「パルマ人」の意味。同名の画家がいる。
チーズの原料は前日に搾った牛乳を一晩置いて分離した乳脂肪分を抜いたものと当日の朝に搾った牛乳を混合。 水分を完全に抜き切って熟成させるので、超硬質なハーチーズ。日本でパルメザンチーズとして販売されている粉チーズは別物。
24ヶ月熟成、つまり2年間も寝かしたパルミジャーノ・レッジャーノ。まさに魔神城の眠り姫。パルミジャーノ・レッジャーノは最低でも12ヶ月熟成しないといけない。すぐに収入にならないので、イタリアの銀行の中には熟成前のパルミジャーノ・レッジャーノを担保として預かるところもあるとか。それほどイタリア人にとって密接な関係を持つチーズである。
一般的にパルミジャーノ・レッジャーノは24ヶ月熟成したものが標準。それ以下は熟成が少ないものになる。好みの問題だが、12〜18ヶ月のものはフレッシュ感と酸味がある。24ヶ月熟成は甘味と風味が豊か。
パルミジャーノ・レッジャーノを使ったパスタ
パルミジャーノ・レッジャーノを使ったパスタの代名詞は「フェットチーネ・アルフレード」。フェットチーネにパルミジャーノ・レッジャーノとバターを混ぜて作る超簡単なパスタ。茹でたスパゲッティ(フェットチーネ)にバターとチーズを混ぜてかけるだけ。日本でいう卵かけご飯のような存在。パルミジャーノの底力を味わえる。
ポヴェレッロ(貧乏人のパスタ)
仕上げにパルミジャーノ・レッジャーノの大雪を降らせるパスタといえば、ポヴェレッロ(貧乏人のパスタ)。どこが貧乏人やねん、というツッコミ入れたくなるが、味で言えば全パスタの中でも最高峰。ぜひパルミジャーノ・スノウを降らせて欲しい。
ペコリーノ・ロマーノ
ペコリーノ・ロマーノ(Pecorino Romano)は、羊のミルクが原料のハードチーズ。2,000年以上前からあり、ローマ軍の食料として食べられた。イタリア最古のチーズと言われて、「ローマの宝石」と言えるチーズ。「ペコリーノ」は雌羊を指すイタリア語「ペコーラ」から、「ロマーノ」は「ローマ近郊の」と言う意味。その名の通り、ローマで生まれたチーズである。
ミルクを温めて乳酸菌などを加えると、乳たんぱく質が凝固する。不純物を取り除いて加熱し、水分を取り除き型に詰めて最低5ヶ月から1年ほど熟成さる。保存食として作られていた時代の製法を受け継いでおり、たっぷりの塩を刷り込んでいる。ペコリーノ・ロマーノは最低でも5ヶ月以上、熟成させないといけない。日本には偽物が多いので注意が必要なチーズ。
塩味が強く、日本人にはクセが強すぎて敬遠され、レストランではあまり使われない。代わりにパルミジャーノを使う。しかしイタリア、特にローマではチーズ=ペコリーノ・ロマーノを指し、カルボナーラやカチョエペペ、アマトリチャーナなどのメジャーパスタにはペコリーノ・ロマーノが使われる。
ペコリーノ・ロマーノを使ったパスタ
グリーチャ
絶対にペコリーノ・ロマーノでないといけないパスタが「グリーチャ」。かつてローマの羊飼いが夏の放牧の時期にグリシャーノ村にやってきて、村人はグアンチャーレを、羊飼いはペコリーノチーズを物々交換した。その2つを合わせて誕生したのがグリーチャ。人と人との交流が生んだ温かい歴史のパスタ。
カチョ・エ・ペペ
カチョ・エ・ペペはチーズと胡椒を和えたパスタ。カチョ(cacio)はチーズ、ペペ(pepe)は胡椒、エは英語の&。日本語に訳すと「チーズと胡椒のパスタ」になる。ローマではカルボナーラ、アマトリチャーナと並んで「三大パスタ」と呼ばれている。味で言えば、チーズパスタの王様。
好きなパスタランキングで必ず上位に食い込む「カルボナーラ」もローマ発祥のパスタ。「ラ・カルボナーラ(La Carbonara)」という店で1940年頃と言われている。カルボナーラで最も重要なのはグアンチャーレ(豚の頬肉の塩漬け)を使うことなので、チーズはパルミジャーノとブレンドしたり、パルミジャーノで作るローマ人も多い。
グラナ・パダーノ
塩分を控えたいけど、チーズの旨味はたっぷりほしい人はグラナ・パダーノ。牛乳を原料とするチーズで、主にイタリア北部で作られる超硬質のチーズ。グラナ(Grana )は「粒状」、パダーノ(Padano)は「ポー川周辺の平地」の意味で、まったく味に関係ない。叩き割るとボロボロと粒状に崩れるらしいが、ホンマかいな?イタリアンの店で粉チーズを出されたら、グラナ・パダーノであることが多い。
グラナ・パダーノは1135年に修道院で余った牛乳の保存方法として考え出された説があり、本当なら歴史がかなり古い。グラナ・パダーノは熟成期間が最低9ヶ月と決まっている。パルミジャーノ・レッジャーノより熟成期間が短い分、塩分濃度が低い。パルミジャーノでは塩がキツいと感じる人はグラナ・パダーノがおすすめ。塩魔大王にはペコリーノ・ロマーノ。特にこのパスタに使うという決まりはないので、チーズパスタであればグラナ・パダーノで作っても良い。
イタリア代表のチーズ
ゴルゴンゾーラチーズ
フランスの『ロックフォール』、イギリスの『スティルトン』と並ぶ世界三大ブルーチーズ。名前の由来はミラノ近郊のゴルゴンゾーラという村だが、現在は製造されていないらしい。放牧に出ていた牛をこの村で休憩するときに絞って作ったことが発祥とか。パルミジャーノやペコリーノ、モッツァレラのほうがメジャーだが、味でいえばゴルゴンゾーラの足元にも及ばない。アナトールは「ブルーチーズ」と種類の名前で呼んでいたが、あれはゴルゴンゾーラだったはず。口に入れた瞬間、舌の大地を這うように広がるアオカビの芳香がたまらない。
ゴルゴンゾーラチーズを使ったパスタ
モッツァレラチーズ
イタリアの三大チーズといえば、「モッツァレラ」「ゴルゴンゾーラ」「パルミジャーノ・レッジャーノ」。モッツァレラはイタリアのフレッシュチーズ(熟成しないチーズ)。原料は水牛の乳で、めちゃくちゃみずみずしい。イタリア南西部のカンパニア州が原産。モッツァレラという名前は、イタリア語で「引きちぎる」の意味。チーズに餅のような弾力がでてきたところで、引きちぎって作るところから来ている。弾力ある歯ごたえとクセのない味が特徴のチーズ。
モッツァレラチーズを使ったパスタ
マスカルポーネ
マスカルポーネはイタリア原産のクリーム・チーズ(牛乳とクリームで作られるチーズ)。酸味や塩分が少なく、ティラミスの材料としても知られている。イタリアのロンバルディア地方が原産で、昔は冬にしか作られない希少なチーズだった。名前の由来は12世紀にイタリアを訪れたスペイン総督が「マス・ケ・ブエノ」(素晴らしい!)と絶賛したことから「マスカルポーネ」になった説が有力。
マスカルポーネを使ったパスタ
リコッタ・サラータ
アッラ・ノルマに使われるリコッタ・サラータ。南イタリア原産のセミハードタイプのチーズで、脂肪分が少なく豆腐のような味わい。サラータは「塩」の意味。リコッタチーズに.塩を加えて、数週間 ほど乾燥させる。「リコッタ」はイタリア語で「二度煮る」という意味。ほぼパスタ・アッラ・ノルマ専用。
リコッタ・サラータを使ったパスタ
フランス代表のチーズ
コンテチーズ
コンテチーズはフランスの東部、スイスとの国境にあるコンテ地方のジュラ山脈で作られる。冬の寒さが厳しく、乗り切るために保存性の高いチーズが作られるようになったのは1000年以上前。原料は、牛の生乳、天然の酵素、海塩のみ。着色料や合成添加物は使わない。クセがないので食べやすく、チーズ好きとしては物足りなさもあるが、パスタを援護射撃するにはもってこい。なくても困らないが、あると良さが何倍にもなる。SMAPでいえば、稲垣吾郎のような存在。ラ・マルセイエーズ 。
コンテチーズを使ったパスタ
カマンベール
カマンベールチーズはフランスを代表する白カビチーズ。皮が白カビに覆われ、中がやわらかく、内部はクリーム色。上品でクリーミー、かつトロリとした濃厚な味わい。1791年、フランス北部にあるノルマンディ地方のオージュ渓谷南のカマンベール村で、マリー・アレルという農夫が作ったと言われる。スーパーやコンビニで見ない店はないほど、全世界に広まったアイドル・チーズである。パスタに使うのがもったいないほど美味しい。カベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワインとの相性が最強。
カマンベールチーズを使ったパスタ
ミモレットチーズ
ミモレットチーズ(Mimolette)はフランス代表のチーズ。温めた牛乳から作られ、鮮やかなオレンジが美しい。このオレンジ色は植物色素(アナトー)によるもの。店頭では半月型で売られていることが多い。ミモレットはフランス語の「半分柔らかい」という意味の「ミ・モレ」に由来すると言われている。ダニの力で熟成するチーズで、熟成期間によって味わいが大きく変わる。熟成2〜6ヶ月は「ジュンヌ」と呼ばれマイルドでクセのない味わい。しかし、熟成12〜18ヶ月は「ヴィエイユ」と呼ばれ、カラスミのような風味になる。
イギリス代表のチーズ
チェダーチーズ
チェダーチーズは牛乳を原料とするセミハードタイプのチーズ。元来はイングランドのサマセット州チェダーで作られていた。そのまま食べても美味しく、ワインのおつまみの代名詞。オレンジの色合いが映え、GReeeeNやSMAPの『オレンジ』を歌いながらマッケンチーズを作るのがおすすめ。
イギリス本国では、世界三大ブルーチーズの『スティルトン』と並んで有名。
チェダーチーズを使ったパスタ
オランダ代表のチーズ
エダムチーズ
「エダムチーズ」である。初めて聞く方もいるだろう。エダムチーズはオランダを代表するチーズ。スーパーでよく見かける「ゴーダチーズ」もオランダ産であり、この2つが双璧。しかし、味は比べものにならない。オランダ北部のエダム地方が原産で、牛乳が原料。戦後日本に輸入されたチーズの第一号らしい。当時、輸出用のエダムチーズには赤色のパラフィンワックスがかけられていることから、日本では赤玉とも呼ばれた。
アンパンマンのチーズに食べて欲しいチーズ堂々1位。このチーズ、ハッキリ言って美味い。いや、美味すぎる。チーズ好きで数々の種類を嗜んできたが、そのまま食べるならブッチギリ。味は濃い目なので好みにもよるが、濃厚な乳製品の旨味がこの小さな宇宙に凝縮されている。コクが強いのにあっさり。まさに神秘のチーズ。ドラゴンボールの初代の元気玉を浮かべて欲しい。球体は小さいのに威力は最強だった。白状すると、パスタに使うより、そのまま食べてお酒のおつまみにしたほうが美味いのだ。
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エダムチーズを使ったパスタ
【参考】ゴーダチーズ
パスタに使う機会は滅多にないが、ゴーダチーズはエダムチーズと並ぶオランダの代表的なチーズ。日本のスーパーで多く売っている。名前はロッテルダム近郊の町ゴーダで作られたことが由来で、オランダでのチーズ生産量の60 %を占める。牛乳から作られ、味がマイルド。クセがないので超チーズマニアには物足りないが、大衆的な味。セミハードでや少し柔らかいので削りやすくはない。クセが強すぎないカルボナーラを好む人におすすめ。これからもパスタはチーズの夢を見る。最後までご覧いただき、あリガトーニ。