無人島に持って行くものは「ニンニク」と答える。ニンニクを食べれば風邪も逃げていく。エヴェレストなどヒマラヤの8,000メートル峰に登るネパール人はニンニクを生でガシガシかじる(真似したが無理だった)。「ニンニクさえ食べれば高山病にならない」と本気で口を揃えて言っていた(絶対なるけど)。ニンニクは最強の食材であり、パスタの界王拳。パスタと共販関係、深いコクと風味を与える。ニンニク・マッドネスの幕が開ける。
ニンニクの歴史と栄養
ニンニクは漢字では蒜、大蒜と書き、忍辱と書くこともある。歴史は深く、古代エジプトや古代ギリシャ、古代ローマでは疲労回復、強壮作用の薬として使われていた。エジプトのピラミッドの内部にはニンニクが描かれた絵が残されており、古代ギリシャでは、滋養強壮や戦士たちが傷口を消毒するために使用され、古代ローマでも軍人に与えられていた。中国から日本に入ってきたのは平安時代と言われる。
ニンニクの栄養素
- アリシン:抗菌・抗ウイルス作用がある
- ビタミンC:抗酸化作用があり、免疫力を高める
- ビタミンB6:神経系や免疫系の健康に役立つ
- セレン:抗酸化作用があり、免疫力の向上に役立つ
ニンニクは味や風味はもちろん、健康にもいい。コロナのワクチンを打つ1週間前からずっとペペロンチーノを食べ続けた。会社の人間は高熱が出たり具合が悪くなったりしたが、自分だけまったく変化なし。ニンニク最強。
黒ニンニク
通常のニンニクとは別に「黒ニンニク」もある。通常のニンニクを高温、高湿で3〜4週間置いて熟成すると黒くなる。黒ニンニクは糖度が増え、生でかじるとドライフルーツのように甘酸っぱい香りが広がる。ニンニクに比べて臭いもマイルド。フルーツ感覚で食べられる。黒ニンニクの発祥は三重県で、青森県も有名。
国産(青森)、中国、スペイン産ニンニクの違い
左から青森産、スペイン産、中国産。値段も国産から順番に高い。自分は青森産にこだわっているが、結論を言うと好みで大丈夫。これから3つの違いを説明していくので、コレ!と思ったものを選べばOK。
ニンニクのサイズと形の違い
左から青森産、スペイン産、中国産。形がちょっと違う。青森産は美しく、スペイン産は少しいびつ。中国産も綺麗な形をしている。
サイズも青森が大きく、次にスペイン産、そして中国産は小ぶり。一般的に青森のニンニクは寒冷地で育てられ、スペインのニンニクは暖かい地中海沿岸地域で育てられる。中国のニンニクは広範囲に渡る気候条件の中で育てられる。
1片ずつ見ると形が違う。青森は半月、スペインや中国は三日月。青森のニンニクは丸みを帯びた球形、スペインのニンニクは平たい形状、中国のニンニクは角ばった形状。青森県産は切りやすく、鮮度の問題なのか水分が豊富で包丁を入れたときの感触がいい。
ニンニクの風味の違い
違いは生でかじれば分かる(危険なので試すときは覚悟を)。中国産はパンチが少ない。スペイン産はガツンと強烈な辛味が襲って舌に残る。青森県産もガツンと辛味が来るが、スーッと辛味が退出して爽やかな口が残る。
- 青森県:風味が豊か。辛味は少ない
- スペイン:辛味が強い
- 中国産:クセがない
好みの問題だが、ニンニクのガツンとしたパンチが欲しければスペイン産、逆にニンニクの存在感が弱いほうがよければ中国産、値段は高いが風味が欲しければ青森産。ちなみに国産と一口に言っても種類は多い。
青森が圧倒的にシェアを占めるが、香川県など暖かい地域でも栽培される。暖かい地域になるほどスペイン産の特徴に近くなる。
ニンニクの切り方
すりおろし、みじん切り、スライスの主に3種類。他にそのままグシャッと潰すだけものもある(これが薬師丸ひろ子なみに快感)。スラムダンクの左手は添えるだけみたいな感じ。ただしクラッシュ式はニンニクの存在感が少なくなるのでニンニク・マッドネスの自分はあまり活用しない。左手は添えるだけのパスタは椎茸のペペロンチーノ。
ニンニクの風味・辛味がガツンと来る順番は次の通り。
- すりおろし
- みじん切り
- スライス
すりおろし
最もニンニクの存在感が際立つ、いや際立ちすぎるのが「すりおろし」。ひとたび擦りおろそうものなら、ワンルームのアパートの3日間は匂いが残る。アパートの鍵貸せない。パスタにしたときも、ニンニクの味がマイク・タイソンのパンチのようにガツンと来る。ニンニク・マッドネスのための切り方。「ペペロンチーノを昼に食べると口臭が気になる」と言われるが、それはチューブなど擦りおろしのニンニクを使っているから。ラーメン二郎のニンニクマシマシや、家系ラーメンのニンニクが擦りおろしてあるだろう。ニンニクは火を通すと匂いが抑えられるので、スライスはニンニク臭はほとんど気にならない。「私をニンニク王国に連れてって」と言う人は、擦りおろしまくってください。※チーズを削るグレーターとは分けたほうが賢明。
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みじん切り
ニンニクの切り方で最も多いのが「みじん切り」。フランス語で「アッシェ」と言えばカッコいい。ニンニクのアッシェがパスタの調理で楽しく、また面倒くさい。楽しむコツは良い包丁、まな板を使うこと。切れ味や音でアッシェが楽しくなる。
ニンニクを切るときはペティナイフを使う。コンパクトで小さなサイズも切りやすい。木村拓哉がグランメゾン東京で使った高村刃物の切れ味がバツグン。
話が包丁に逸れてしまったが、脱線がいちばん楽しいもの。真面目にニンニクの話にI'll be backすると、みじん切りがニンニクの風味が際立ち、かつ臭くない。バランスが一番いい。基本パスタではアッシェ(みじりん切り)オンリーと言ってもいい。
※ニンニクを切りすぎて余った場合はオリーブオイルに漬けて冷蔵庫に保存しておくといい。日高良美シェフはパスタを作るときニンニクオイルを使う。1週間以上持つ。
スライス
パスタやソースの邪魔をせず、そっと背中を押すWBCのダルビッシュ有のような役割をしてほしいときはスライス。ニンニク・マッドネスにはありえないが、香りだけオリーブオイルに移して取り除く料理人も多い。また、カリカリに焼いてガーリック・チップスにするパターンもある。小林幸司シェフはスライスでペペロンチーノを作る。ニンニクにはアリシンという辛味があり、80度以上の火を入れると徐々に甘味に変わっていく。スライスは火が入りにくく、すりおろしや、みじん切りに比べてじっくり熱するので、どんどん甘味が増す。エドヴァルド・ムンク《接吻》のようにキスしても大丈夫。
ニンニクの切り方のコツ
ニンニクのみじん切りが苦手な方は潰したあとに塩をひとつまみ振るといい。ニンニクに塩を振ると水分が追い出されてキュッと引き締まり、硬くなるので切りやすくなる。
おまけ:ニンニクの芽はどうする?
プロの間でも捨てるか残すか意見が分かれるニンニクの芽。To be or Not to be。ハムレットのように悩みどころ。芽の部分は焦げやすく捨てる料理人が多いが、正直、そこまで気にしなくていい。飲食店のプロなら分かるが、家庭料理で切り分ける必要はない。そもそもニンニクに火を入れるときは弱火でじっくり香りを移すので焦げた経験がない。食品ロス撲滅の点でも有効活用したいところ。
ニンニクの焼き加減(パスタ)
目的はニンニクの香りを移すこと
パスタにおいて誤解が多いのが、ニンニクを炒める目的。ニンニクを焼いて美味しくするためじゃない。最大の目的はニンニクの風味をオリーブオイルに移すこと。美味しいオリーブオイルを作ってパスタと絡めることで美味しさを倍増させる。界王拳。だから火をつける前にニンニクをオリーブオイルに浸して、火を入れてニンニクの香りを引き出し、じっくり香りを移していく。
焼き色はボディビルダー色
難しいのがニンニクの焼き加減。理想はボディビルダー色。キツネ色、柴犬色と表現する料理人もいる。真っ黒に焦げたらNG。そのギリギリ手前で止める。美しいボディビルダー色になれば、ベスト・ボディ・ガーリック。
アーリオ・オーリオ(ニンニク)の作り方
検証で使ったニンニクを捨てるのももったいないので、全部フライパンに放り込んでシンプルなアーリオ・オーリオを作った。これぞニンニク・マッドネス。ニンニクを使うときのコツは火をつける前にニンニクとオリーブオイルを入れること。先にオイルを温めてしまうと一気にニンニクに火が入ってしまい焦げる。それではニンニクの芳香がオイルに移らない。できればコンロで鍋を傾けると気持ちいい。
オイルがプツプツ沸騰するまでは強火。シュワシュワ沸いてきたら弱火に変える。火力は弱くてもいけないし、焦がしてもいけない。冷静と情熱の間の見極め。練習が必要。
オイルが沸騰したら傾けていたフライパンを平にして火を入れる。フライパンは奥が最も熱く、手前の温度が低いのでニンニクをメリーゴーラウンドのように回す。
ニンニクが色づいてきたら火を止める。あとは余熱の米津玄師で十分。これ以上、火を入れると黒く焦げてしまう。ちょっと焼きムラができてもOK。イタリア料理はムラの美学 by 小倉シェフ。
今回のアーリオ・オーリオはワンパンで。水を入れて沸騰させ、パスタを直接フライパンに放り込む。リゾッタータ。水分がなくなってきたら、オリーブオイルを回しかける。オリーブオイルは火を止めてから回しかける。風味が長州力のように飛ぶぞ!