イタリア人は保守的で毎日同じものを食べているなんて言われるけど、日本で見ている限りパスタは進化している。バルサミコ酢を使ったアマトリチャーナは新進気鋭の若手による挑戦らしい。今回紹介するのはアドリア海プーリア州バーリ(靴のカカトの部分)で発祥したその名も「暗殺者のパスタ」
日本在住のイタリア人シェフ、マルコさんがYouTubeで紹介し、一躍人気に。カップ麺まで登場した。名前はイカついが、食べてみると、まあ驚いた。パスタ・オブ・ザ・イヤー。「俺たちに明日はない」とでも言わんばかりに、あらゆるパスタを蜂の巣にする破壊力がある。
暗殺者のパスタの由来
暗殺者のパスタは、イタリア語で「Spaghetti all'Assassina」。「all'」は「〜風」の意味なので正確には「暗殺者風のパスタ」であり「暗殺者のパスタ」であれば「Spaghetti dell'Assassina」になるが、どっちでもいい。なぜ「暗殺者のパスタ」と呼ばれるかは、見た目が血の色に見えることから名付けられた説がひとつ。もうひとつは、1960年代に暗殺者のパスタをバーリのレストランで食べた観客が、あまりの辛さ(美味しさ)にオーナーに「お前は暗殺者だ!」と言ったことから名付けられた説もある。日本的に言えば「殺し屋のスパゲッティ」。1970年代というイタリア人シェフもいて定かではない。注目を浴びたのは最近らしい。現地イタリアではマグロを乗せることもある。
おこげパスタの異名
暗殺者のパスタは、スパゲッティを焦がす「おこげ」で作ることが特徴。イタリア人シェフのマルコさんはドギツイ名前を敬遠して「おこげパスタ」と可愛く命名した。パスタに傷があるように見えるからアル・パチーノとブライアン・デ・パルマ監督の映画「スカーフェイス」にかけて、「Scarfaceのスパゲッティ」なんてどうだろう?
その他の特徴としては、カラブリア産の唐辛子を3つも入れる。トマトペーストを使う。この2点。日本では2023年に流行したが、イタリアでは以前から作られていた。ただし、全土に広がっているわけではなく、いわゆるプーリア州バーリの伝統料理、B級グルメ、日本の富士宮やきそばに近い。
アラビアータとの違い
アラビアータの意味は「怒りん坊」。トマトソースと唐辛子が旨味なのは同じだが「暗殺者のパスタ」はトマトペーストも入れるのでアラビアータとは食材から違う。パスタを焦がす点でも調理工程が違うので何から何まで異邦人。同じトマトソースでもまったく別の食べ物になるからパスタの摩訶不思議アドベンチャー。アラビアータのほうがあっさりしたクールビューティー、暗殺者のパスタは粘着気質。どちらも至高のパスタに変わりなし。
暗殺者のパスタは3種類
暗殺者のパスタは食材によって3つのパターンが作れ、味が全然違う。写真の左がイタリアで作られているトマトペーストを使った暗殺者のパスタ。真ん中がトマトソースを使ったもの、右がトマトジュースとケチャップで作る暗殺者のパスタ。
トマトペースト:濃厚にして辛さ爆発
トマトソース:マイルドで旨味たっぷりプリプリ
トマトジュース:上品でまろやか
日本の料理人がこぞってアレンジレシピを発表したから多彩な暗殺者のパスタができた。その中でもおすすめが今回紹介する隠し砦の三悪人。お好みに合わせて作れる広角打法。食材も麺の太さも違うので、ピッタリな暗殺者とマッチングしてほしい。
暗殺者のパスタはウォックパンがおすすめ
暗殺者のパスタはフライパンでおこげを作るので、パスタが収まるほうがいい。中華鍋があればベストだが、家庭にない人のほうが多い。そのためには26センチ以上のフライパンが必要。深型の中華鍋であるウォックパンがあればパスタを恋焦がしやすい。ウォックパひとつであらゆる料理に対応できるので是非。
暗殺者のパスタ(本家・トマトペースト)
最初はプーリア州バーリで作られている伝統的な暗殺者のパスタ。ハッキリ言って一番美味い。いや、美味すぎる。酸味と辛味の奇跡の相対性理論。映画『セッション』のように喧嘩しながらも至高の音楽を奏でる。食材が重要で揃えるのが大変かもしれないが、できれば現地のやり方で作ってほしい。
暗殺者のパスタの材料(本家)
- マンチーニ2.2mm:100g
- トマトペースト:30g
- カラブリア産の唐辛子:3個
- コッポラ社のトマトソース:100cc
- 青森県産のニンニク:1片
リコピン大魔王がうれしくなるラインアップ。パスタは絶対的に太麺。日本は細麺好きが多いがイタリアでは太麺がスタンダード。強力なトマトソースが絡むので細麺では受け止められない。最低でも1.8mm以上のスパゲッティ。ソースが強烈なので麺が負けないように力強いパスタの王様・マンチーニがおすすめ。
次にカラブリア産の唐辛子は3つ以上使うこと。舌が蒙古タンメンの人は4つでもいい。トマトペーストを使うとリコピンの酸味が強くなるので辛さがKO負けしてはいけない。暗殺者のパスタはカラブリア産の唐辛子を恐れず3つ以上使うこと。
暗殺者のパスタのレシピ(本家)
- ニンニクをスライスにする
- 水700ccにトマトペースト30gを入れ溶く
- 鍋にオリーブオイルを敷きニンニクを炒める
- ニンニクが色づいたら取り出し唐辛子と交代
- パスタを半分に折って入れて思い切り焦がす
- パスタの両面が焦げるまでひっくり返して焼く
- トマトソース100cc入れ、水分が飛ぶまで煮る
- トマト汁を350cc入れ強火で煮る
- トマト汁がなくなってきたら残り半分を入れる
- 水分が完全に飛んだら皿に盛って完成
レシピは日本に暗殺者のパスタを広めたマルコさん。竜巻旋風脚のように日本中に暗殺者のパスタが広まった。
水700ccにトマトペースト30gを入れて混ぜる。ちなみにパスタを焦がすという発想はイタリアはもちろん、日本の飲食店でもメジャー。休憩の合間などに、パスタをフライパンで焼き焦がして塩をまぶし、グリコのプリッツのようにスナック菓子にする。
パスタは半分に折る。折らずに入れるとパスタが入りきらず、おこげができにくい。「パスタを折るのは美学に反する」なんて料理人もいるが、そんなしょーもないこだわりごとバッキバキに骨折させよう。暗殺者のパスタは折るべし。
パスタは遠慮せずに焦がす。思いっきり焦がす。暗殺者のパスタは血の色だが、作るときはアオハル。焦げを恐れない。恋を恐れない。
今回の調理にはターナーがおすすめ。中華鍋にこびりついても掬い取りやすい。恋焦がれたパスタを救うのはターナー。あの鐘を鳴らすのはターナー。
十分にパスタを焦がしたら、まずはコッポラ社のトマトソースを投入。なければトマトピューレやトマト缶でもいい。水分が完全に飛ぶまで煮詰める。
水とトマトペーストを混ぜたトマト汁を半分入れる。コツは一気に全部入れないこと。鍋でパスタを煮込むリゾッタータは、足りなくなったら足す。一気に全部入れるとパスタが溺れて吸収が遅れる。
パスタがトマト汁を吸い切ったら皿に盛る。暗殺者のパスタは、まずはオリーブオイルもチーズも何もつけず味わってほしい。酸味と辛味の殴り合い、パリパリの食感があり得ないほど美味しい。
味変ドリックスは2つ。まずは最初のほうに退場したニンニク・チップスを入れる。いつでもヒーローは忘れた頃にやってくる。リコピン大魔王とニンニク・マッドネスの饗宴。スタローンとシュワルツネッガーのエクスペンダブルズ。
ニンニクを食べ切ったら美味しいオリーブオイルをひと回し。味がマイルドになり、一気に高級パスタに変わる。おすすめは暗殺者のパスタに負けない力強いピクアル種。
本家の「暗殺者のパスタ」は、殺し屋の映画に例えるとアル・パチーノの『スカーフェイス』権力を恐れず、本能のままムカつく奴をぶち殺す。顔に傷ができても前進をやめない力強さがこのパスタにぴったりである。
↓↓暗殺者のパスタの食材↓↓
暗殺者のパスタ(トマト缶)
トマトペーストなんか家に無いし、わざわざ暗殺者のパスタのために買ってられるか、という方はリュウジさんの暗殺者のパスタ。本家よりクセは少ないのでリコピン大魔王には物足りないが、これもパスタ・オブ・ザ・イヤーの美味しさ。酸味が少なく、コンソメの出汁が効いている。映画に例えるならスタローンの『暗殺者』、トム・クルーズ『アウトロー』、ブラッド・ピット『ジャッキー・コーガン』である。
暗殺者のパスタの食材(トマト缶)
- ガロファロ1.5mm:100g
- コッポラ社のトマトソース:大さじ4
- 青森県産のニンニク:2片
- カラブリア産の唐辛子:2個
- コンソメ:小さじ1と1/3
リュウジさんのレシピをベースにしているが大きく違う。まずはパスタ。リュウジさんはリゾッタータ(フライパンの中でパスタを煮る方法)のときは細麺のテフロン(表面がツルツルしたパスタ)を勧める。リゾッタータは強火で煮るので、太麺のブロンズダイス(表面がザラザラしたパスタ)はパスタの表面がボロボロになる。確かに日本の軟水で茹で時間の長い太麺を10分前後も煮るとボロボロになるが、代わりにツルツルしたテフロンでは、トマトの旨みを受け止められない。納豆パスタやペペロンチーノのオイル系ならテフロンでいいが、暗殺者のパスタはトマトソースが絡むようブロンズダイスを使いたい。そこで救世主のように登場するのが「ガロファロ」の1.5mm。
小倉知巳シェフの愛用で、参宮橋にあるレガーロのお店でもガロファロを使っている。1789年、南イタリアのナポリ近郊のグラニャーノで、ルーチョ・ガロファロ氏が創業。初めてパスタ製造のライセンスをグラニャーノ市から与えたれた最も伝統のあるパスタメーカーのひとつ。細麺だがフライパンの熱にも強く、茹で時間は5分ちょっとと短い。小倉シェフ曰く、ガロファロは細麺なのに華奢ではなく、力強いアルデンテ。
次に重要なのがコッポラ社のトマトソース。リュウジさんはトマト缶を使うので酸味が強く甘さを足すためにタマネギを援軍にする。しかし料理をする人ならわかるが、玉ねぎのミジン切りほど面倒くさい工程はない。その点コッポラ社のトマトソースは玉ねぎの旨味がたっぷり入っているので、わざわざオニオンを買う必要がない。トマソーとしての美味しさもダントツなので、コッポラ社のトマソーを使って欲しい。
暗殺者のパスタの作り方(トマト缶)
- ニンニクをみじん切りにする
- フライパンにオリーブオイルを敷きニンニク、唐辛子を炒める
- ニンニクが色づいたらトマソーを入れる
- パスタ、オリーブオイル大さじ1入れて焦がす
- パスタの両面が焦げるまでひっくり返して焼く
- 水420cc、塩2つまみ、コンソメ小さじ1と1/3を入れる
- 強火で5分煮て水分を飛ばす
- オリーブオイルなどはかけず皿に盛って完成
ポイントは「おこげ」にしてパスタに傷をつける。アル・パチーノのスカーフェイス。
これ絶対、失敗したやろ!素直に謝れや!と言われるくらい焦げれば勝ち確。おこげを作るには、できれば鉄のフライパンがおすすめ。中華鍋もいいが、なければ普通のテフロンパンでOK。
水を入れて沸かすときは地獄の黙示録のような血の池地獄が理想。キレが凄いのにやさしや童心をくすぐる。情熱の赤、まさにスカーフェイス。ブライアン・デ・パルマにも食べてもらいたい。パスタ・オブ・ザ・イヤーは目の前。
↓↓暗殺者のパスタの食材↓↓
暗殺者のパスタ(トマトジュース)
最後は超マイルドな暗殺者のパスタ。トマジュースとトマトケチャップを使う。上品であまりにもやさしい殺し屋。ジャン・レノの『レオン』の暗殺者のパスタである。
暗殺者のパスタ(トマトジュース)の材料
- ガロファロ1.5mm:100g
- トマトジュース:200ml
- ケチャップ:大さじ1
- 青森県産のニンニク:1片
- カルピス社のバター(有塩):10g
- マリチャの黒胡椒:殺されるくらい
どれもスーパーやコンビニで手に入る食材。暗殺者のパスタなのにカラブリア産の唐辛子を使わない。だから全く辛くない。その代わり刺激として黒胡椒が重要。『レザボア・ドッグス』の黒服のようなもの。バターも超重要。一気に上品になる。
暗殺者のパスタ(トマトジュース)のレシピ
- ニンニクをみじん切りにする
- トマトジュースに水200mlを加える
- フライパンにオリーブオイルを敷く
- スパゲッティを半分に折って焼く
- パスタが焦げたらニンニクを焼く
- ニンニクが色づいたらケチャップを入れる
- 水分が飛んだらトマトジュースを入れる
- パスタの水分がなくなってきたらバターを投入
- 火を止めて胡椒を20カリカリくらいする
- 皿に盛って胡椒を15カリカリする
レシピはフレンチの料理人ジョージさん。料理に負けず話術がすごい。
トマトジュースには水を200ml加える。150mlくらいでもいい。
鉄鍋ではなくT-falのウォックパンで試してみた。料理人が「鉄鍋がなかったらテフロンパンでOK」というけど、ホンマかいな?と真実を求めジャングルの奥地に冒険に出た。
完璧なおこげ。鉄鍋いらんやん。普通のフライパンで十分やん。
ポイントは後からニンニクを入れること。パスタにしっかりおこげを付けよう。
ニンニクが色づいたらトマトケチャップ皇帝を投入。寺山修司に食べてもらいたい。
ケチャップの水分が飛んだらトマトジュースを入れる。一気に全部入れるのではなく、パスタの表面が浸かるくらいで。半身浴がいい。水分が少なくなってきたら足す。
水分がなくなってきたら、美味しいバターを投入。コクとまろやかさのハーモニー。お皿に盛ったら、上品さを台無しにするくらい胡椒をカリカリしよう。食べ飽きてきたら味変ドリックスはオリーブオイル。
一気に上品さが増し、アラン・ドロンの『サムライ』に化ける。殺し屋とは思えない、レオンのようなやさしさ。マチルダにも食べてもらいたい。
↓↓暗殺者のパスタの食材↓↓
最後までご覧いただき、あリガトーニ。